近年ニュースでたびたび目にする「技能実習生の失踪」。
「どうして日本に来たのに、逃げるの?」「なぜ特にベトナム人の失踪が多いの?」
そう疑問を抱く人も多いはずです。
私自身、数年にわたり全国各地で技能実習生や彼らを支援する団体を取材してきました。
そしてわかったのは、“逃げた”のではなく、“逃げざるを得なかった”という現実でした。
「逃げたかったわけじゃない。でも、もう無理だったんです」
—— 都内で保護されていた元ベトナム人実習生(男性・当時26歳)
彼は来日前に100万円以上の借金を背負い、来日後は長時間労働と手取り7万円の生活。寮費や仲介手数料で差し引かれ、送金どころか自身の生活も成り立たなかったと言います。
問題は彼ひとりに起きた特殊な事情ではなく、制度そのものの設計にあったのです。
こんな方におすすめ
- 技能実習生制度の構造的な問題
- 国籍ごとの失踪の背景
- 制度に隠された“都合のいい美談”の裏側
といった疑問を、実体験・統計・現場の声を交えて徹底的に掘り下げていきます。
知られざる「制度の裏側」を、あなたもぜひ知ってください。
Contents
技能実習生制度とは?建前と本音のギャップ
「技能実習生制度」とは、途上国の若者が日本で技術を学び、それを母国に持ち帰ることで国際貢献するという建前の制度です。
ところが、現実はまるで違います。
「実際は安価な労働力の確保に利用されているだけだと思った」
—— 失踪したベトナム人実習生・Aさん(匿名/都内某NGOで保護中)
本来は「実習」や「学び」が目的のはずが、実際には農業、建設、介護、製造業など人手不足の現場に「3年間拘束される労働者」として投入されます。しかも、低賃金で、転職の自由はなし。
【実態】なぜ技能実習生は失踪するのか?
法務省の最新統計(2024年)によると、技能実習生の失踪者数は年1万人以上。とくに多いのがベトナム人で、全体の約6割を占めています。
国籍別・失踪者の割合(2023年)
| 国籍 | 失踪割合 | 主な理由 |
|---|---|---|
| ベトナム | 約60% | 斡旋費用の借金返済/給与と生活のギャップ |
| 中国 | 約20% | 拘束的労働/契約との乖離 |
| ミャンマー | 約10% | 政情不安/過酷な労働環境 |
| カンボジア | 約8% | 仲介業者による搾取/言葉の壁 |
| その他 | 約2% | 各国に共通する“構造的問題” |
この統計は出入国在留管理庁や法務省の公表資料に基づきます。
この表から明らかなように、全体の半数以上(56.2%)がベトナム人という極端な偏りがあります。
以下が、ベトナム人技能実習生の失踪が多い主な理由です
- 仲介業者(ブローカー)による高額手数料(30万円〜100万円超)が一般的
→ 家族の借金を背負って来日し、返済のプレッシャーが強い - 来日前の情報が誇張されているケースが多い
→ 「日本に行けば楽に稼げる」という誤解が広まりやすい - 日本語が通じず孤立しやすい
→ トラブル発生時に助けを求める手段が乏しい - 同郷コミュニティが逃亡ルートとして機能している
→ “逃げても仕事はある”という情報が内輪で出回る
一方、ミャンマーやカンボジア、インドネシアといった他の国からの実習生も一定数失踪しており、これは制度全体の問題が“特定の国”だけの事情ではないことも示しています。
失踪者の“その後”は?
- 建設現場や飲食業で「不法就労」
- 地下経済で“名ばかり雇用”
- 賃金未払い・住居なし・病院にも行けない生活
制度の問題点を深掘り
【1】来日前から背負わされる「借金」と「家族の期待」
技能実習生の多くは、出身国で仲介業者を通して手続きをしています。この仲介費用は20万円〜100万円以上にもなり、家族や親戚の資産を担保に借金するケースも少なくありません。
「うちは農家で貧しく、兄弟4人の中で自分だけが家を建てるチャンスだった。だけど来日して3ヶ月、夢どころか、寮費を引いたら手取りは7万円しかなかった」
失踪した元ベトナム人実習生・Tさん(都内NGOの保護下にて)
【2】転職できない「制度の縛り」が逃げ道を奪う
技能実習制度の大きな問題の一つが、転職の自由がないことです。実習生は、契約した受け入れ先から原則として職場を変えることができません。
つまり、どんなに劣悪な環境でも、辞める=帰国 or 逃亡という二択に陥ります。
「怒鳴られ、罵られ、毎日が怖かった。誰にも相談できなかった。心が壊れる前に“失踪”を選んだ」
ミャンマー出身の元実習生(2023年 支援団体にて)
【3】「実習」と言いながら、技能が身につかない現場の実態
制度名は“技能実習”ですが、実際には単純作業の繰り返し。3年間いても「技術」は得られず、帰国しても使えないという声が多く聞かれます。
- 同じ部品を1000個単位で加工するだけの工場勤務
- マニュアル通りの清掃業務を朝から晩まで繰り返す
「“日本の技術を学べる”って言われたけど、やってたのはペットボトルの分別と掃除だけ。こんなの勉強じゃない」
ベトナム人実習生・Bさん(取材時20代男性)
【4】日本語が話せない=助けを求められない
技能実習制度では、日本語能力が問われないため、来日直後はまったく会話ができない状態の人が大半です。
孤立=黙って耐える or 逃げるしかないという構図に陥りやすい。
【5】報道が作る「失踪=悪者」という誤解
日本の報道では、失踪実習生が不法就労や窃盗に関与したニュースが目立ち、まるで制度の犠牲者ではなく“問題を起こす側”として描かれがちです。
「“失踪者=犯罪者”みたいな報道ばかり。でも、自分たちの生活を守るために逃げただけだよ」
匿名希望・元技能実習生(現在特定技能に切替)
【6】失踪後の生活
逃げた後に待つのは、決して“自由”ではありません。
その姿はまるで“見えない移民”、制度からも社会からも存在を抹消された存在です。
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参考技能実習生と特定技能の違いを徹底解説 制度の概要・比較・課題と今後
「技能実習は“勉強”じゃなくて、“働き”です。でも転職はできません。だから、逃げる人もいます」 都内の建設現場で働くベトナム人男性に、取材中こう語られたことが今も忘れられません。彼は3年間の技能実習を ...
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体験談 失踪者を出した現場のリアル

“気づいたときには、もう誰もいなかった”
2023年10月、私は埼玉県北部にある中規模の縫製工場を訪れました。
その工場では、ミャンマーやベトナムからの技能実習生を毎年3~5名受け入れていました。
取材当日、応接室で迎えてくれたのは、70代の工場長・高木さん(仮名)。開口一番、彼はぽつりとこう言いました。
「彼らが失踪した朝、私はまったく気づかなかったんです」
失踪したのは、ベトナム人の青年2人。20代前半で、来日してまだ1年にも満たない時期でした。
前日までいつも通り作業をしており、特に変わった様子もなかったといいます。
高木さんは続けます。
「朝、出勤してタイムカードを見たら、打刻がない。寮に電話しても出ない。管理団体に連絡して、ようやく“いなくなった”と理解しました。正直、裏切られたと思いましたよ」
だが、話を深掘りしていくと、その感情はやがて“戸惑い”と“無力感”に変わっていきました。
「振り返れば、思い当たることがないわけじゃないんです」
「夏は工場内が35度を超えてもエアコンがなくて、“暑い”って彼らはよく言っていた」
「給料も、最低賃金は守ってたけど、控除が多くて手取りは7万〜8万円くらいだったと思う」
寮費、光熱費、監理団体への手数料、そして母国への仕送り。
手元に残るのは、自分の食費すらギリギリな額だったと、後に残った別の実習生から聞いたそうです。
失踪から数週間後、近隣の別工場で彼らを見かけたという噂が流れました。
高木さんはその話を聞いて、初めて「うちが原因だったのかもしれない」と感じたといいます。
「あのとき、もう少し声をかけていたら。もっとちゃんと話を聞いていたら、違ったかもしれない」
彼の言葉には、自責と、制度に対する疑問が混ざっていました。
「彼らが帰ってきてくれたら、謝りたい。日本は彼らを“技術を学ぶ人”として受け入れたはずなのに、現実は“安くて便利な労働力”として使ってしまっていた気がするんです」
この現場の話は、決して特殊ではありません。
私がこれまでに取材した多くの工場・農場・建設現場でも、同じような声を何度も耳にしてきました。
本当に逃げたのは、実習生だけだろうか?
この体験談を通して私たちが問うべきなのは、実習生が職場から「逃げた」ことそのものではなく、
“人間として向き合うべき誰かとの関係から、私たちが目を背けてきた”という事実です。
失踪のニュースの裏には、いつも名前のない声と、語られない後悔があります。
そしてその多くが、「制度ではなく人が動かす社会」の中で起きているのです。
よくある疑問とその実情(FAQ)
技能実習生って本当に“勉強しに来てる”の?
いいえ、多くは「出稼ぎ」のために来日しています。制度上は「実習」ですが、現場では実質的に“単純労働者”です。
なぜベトナム人の失踪が多いの?
ベトナムでは仲介業者の力が強く、来日前に高額な費用を払わされる傾向が強いため、逃げざるを得ない状況に陥りやすいです。
失踪するとどうなるの?
不法滞在扱いとなり、捕まれば退去強制処分。ただし、逃げた先で違法労働を続けるケースも多く、地下経済に組み込まれています。
国際的には問題視されていないの?
国連やアメリカ政府からも「人身取引に近い」として日本政府に改善を求める報告が複数出されています。
制度は今後どうなる?
政府は制度の見直しを表明し、2027年をめどに「技能実習制度を廃止し、新制度に移行」としていますが、根本の構造改善は不透明です。
私たちにできることは何か?
正直、ひとりの力で制度を変えることはできません。
でも、“知ってる人が増えること”は、変化の始まりになります。
「気づいた人が、気づかなかったふりをしないこと」
ある支援団体スタッフの言葉
その姿勢こそが、技能実習生制度を“構造的な搾取”として問い直す、最初の一歩になるのです。
まとめ
ここまで見てきたように、「技能実習生の失踪」という表面的な現象の裏には、制度そのものが抱える深い歪みがあります。
私たちがニュースで耳にする「逃げた」「犯罪に関与した」「不法滞在になった」という断片的な情報。
それはあくまで“結果”であって、その背後にある“原因”は、制度そのものに埋め込まれています。
技能実習生が「逃げる」までの流れを振り返る
1.来日前から仲介費用で数十万円の借金を背負う
2.日本に来ても、月収12〜14万円から各種控除で手取りは7万円前後
3.技能習得とは名ばかりの単純労働の繰り返し
4.不満を訴える手段もなければ、転職もできない
5.絶望の中で選ばざるを得ない最後の手段が「失踪」だった
これは単なる“個人の怠慢”でも、“異文化とのミスマッチ”でもありません。
構造的に追い詰められた人々の、無言の抗議です。
技能実習制度は「技術を学んで帰国する」という建前で続けられていますが、
現実は「安価な労働力を確保するための制度」に過ぎないという声は、現場からも、海外からも上がっています。
国連や米国務省も「人身取引の温床」として、日本政府に制度の見直しを勧告しています。
私たちが無意識に享受している“安さ”や“便利さ”の裏には、
逃げられない誰かの疲弊や、孤独や、搾取が潜んでいる可能性があるのです。
