消えゆくセミと日本人の夏を奪う「静かな乱獲者」たち
「木の影に人影が見えたんです。ライトも持たず、ひたすら木を見上げていて……正直、鳥肌が立ちました」
猿江恩賜公園・早朝ランナーの証言
Contents
■ 都心の緑地で始まった異変
都内の公園でいま、異常な光景が広がっている。場所は江東区の猿江恩賜公園。昭和7年に開園された由緒ある都立公園で、夏はセミの大合唱が響く都心のオアシスだ。
だが、そのセミたちがいま「静かに」奪われている。
深夜2時、公園内の木々に近づくと、不気味な気配を感じる。目を凝らせば、懐中電灯も使わずに木の幹をまさぐる“何者か”がいる。
彼らの正体は、「セミの幼虫ハンター」その多くが外国人グループとみられ、公園管理者や近隣住民からの通報が相次いでいる。
■ “無言”の集団、目的は「食用」か?
公園関係者によれば、この異常行動が確認され始めたのは約4〜5年前。当初は1人2人だったが、次第にグループ化し、今では十数匹を同時に採集するケースもあるという。
張り紙にはこう書かれている。
「セミの幼虫を採取しないでください。子供たちがセミの成長を楽しみにしています。」
張り紙は日本語だけでなく、中国語・韓国語・英語でも併記されている。
それほどまでに、採取者の多国籍化が深刻ということだ。
なぜ彼らはセミを狙うのか?
専門家は口を揃える。「食用目的の可能性が高い」と。
実際、中国や東南アジアではセミの幼虫は高たんぱくな食材として珍重され、屋台や家庭料理にも並ぶ存在だ。油で揚げ、塩をふるだけで「美味しい」と感じる人も多いという。
また、雨が降った翌日の夜や、梅雨明け前後の湿った日などに、セミの幼虫は一斉に地中から出てくることが多く、採取者は「いつ出てくるか」を熟知しているという。まさに“狩りのプロ”である。
■ 日本のルールは「知らなかった」?
問題はその手段と規模にある。
夜間の公園に忍び込み、懐中電灯も使わず木を物色し、虫かごに数十匹詰め込む行為は、もはや自然観察のレベルではない。
昨夏、張り込みをしていた警備員が中国人とみられる男女数人を注意したところ、
「なぜダメなのか分からない」
と開き直られたという。
そもそも、都条例では公園内の動植物の採取は禁止されており、営利・商業目的の採集は明確な違反だ。
だが現実には、「知らなかった」「言葉が分からない」といった理由で取り締まりが機能しにくい状況がある。
■ 夏の風物詩が奪われていく
セミは7年近くを地中で過ごし、ようやく地上に出て1週間しか生きられない。
その貴重な羽化の瞬間を子どもたちが見守るそれが日本の夏の原風景だったはずだ。
「雨上がりにセミの抜け殻を探していたら、羽化中の幼虫を見つけたら嬉しくて」
と語るのは、公園近くに住む母親。
だが近年は、
「朝になってもセミの鳴き声が少ない」
「木を見ても抜け殻がない」
「子どもがセミを見つけられずにがっかりしている」
そんな声が多く聞かれる。
■ セミを食べる風習がある国々
セミの幼虫は以下のような国・地域で伝統的に食材として扱われている:
- 中国(四川省などでは屋台でセミの素揚げが定番)
- タイ(昆虫市場で多く販売、塩炒めが一般的)
- 韓国(一部の地方で「伝統食材」として認識)
- ベトナム(地方の家庭料理や酒のつまみとして)
- ラオス・カンボジア(田舎の市場で一般的に販売)
- ナイジェリアなどのアフリカ諸国(乾燥保存し主食に混ぜることも)
彼らにとっては「美味しい、栄養価の高い自然食材」だが、公共の場での無断採取はまた別問題である。
■ 編集後記:見えない「侵食」は、夜の闇にこそ潜む
この問題は単なる「虫採り」の話ではない。
それは日本人が大切にしてきた自然との向き合い方、子どもたちの体験、公共空間のあり方が、静かに侵食されているという警鐘なのだ。
真夏の夜。もしあなたの近くの公園で、不審な物音がしたら
そこにいるのはもしかしたら、また別の“サイレントハンター”かもしれない。
