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ニセコが壊されていく 観光客10倍の裏で起きている“静かな侵食”

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ニセコのスキー場の様子

10月中旬、秋の終わりを迎えた北海道・ニセコを再び訪れた。
雪景色とは程遠い季節のはずが、街はどこか落ち着かない空気に包まれていた。
駅前では英語と中国語が飛び交い、工事車両が砂煙を上げて走る。
地元の清掃スタッフがため息まじりに「もう日本じゃないみたい」と漏らした言葉が、妙に胸に残った。

筆者が最初にニセコを訪れたのは10年以上前。
その頃のニセコは、観光地でありながらも静かな山里だった。
地元のカフェでは地元の人がコーヒーを淹れ、宿の夕食は家庭料理。
羊蹄山を背景に、どこか牧歌的な空気が漂っていた。

だが今、同じ場所に立っても、見える景色はまるで別の国だ。
看板は英語に変わり、土地価格は数倍。
街の空気は“観光”ではなく“投資”の匂いに満ちている。

かつて静かだった町に何が起きたのか。
筆者は再訪を機に、現地で見聞きした証言をもとに、ニセコで静かに進む“侵食”の実態を追った。
表向きの華やかさの陰で進む変化の本質を、現地の声とともに描いていく。

こんな方におすすめ

  • 観光地の開発や外資進出の問題に関心がある方
  • 北海道・ニセコの現状を現地目線で知りたい方
  • 地方創生・環境保全の両立に疑問を感じている方

外国人観光客が住民の10倍 スキーリゾートの繁栄と歪み

北海道・新千歳空港から特急でおよそ3時間。列車が倶知安駅に近づくと、車窓の外に「蝦夷富士」と呼ばれる羊蹄山の雄大な姿が現れる。かつては、冬になると地元スキー客と数人の外国人観光客が交わる、静かな雪国の町だった。
だがいま、この地域はまったく別の風景を見せている。

ニセコエリアを中心に、冬季の外国人観光客数は住民の10倍を超える。
2024年シーズンには約20万人以上が訪れ、うち8割を外国人が占めた。
町の中心部では英語が公用語のように飛び交い、外国資本の看板が並ぶ。地元住民の間では「もはや日本じゃない」と嘆く声が絶えない。

「ニセコの雪は世界に誇れる。粒子が細かく、どこまでも滑っていける“パウダースノー”です」と話すのは、地元で観光業に携わる男性だ。
30年以上前にオーストラリアのスキーインストラクターがその雪質に惚れ込み、SNSや口コミで世界中に広まったのが、ニセコブームの始まりだった。

だが、名声が高まるほどに観光の熱狂は加速し、町のバランスが崩れていった。
中心街ではカフェやバーが軒並み英語メニューに切り替えられ、地元向けの定食屋は次々と閉店。
地価はこの10年で平均2倍以上に跳ね上がり、若い世代が自分の町に家を建てることすら難しくなった。

「うちは先祖代々ここに住んでるけど、土地の固定資産税が倍以上になってね。観光地として有名になるのはうれしいけど、もう普通の暮らしができない」(倶知安町在住・60代男性)

観光客が落とすお金は確かに大きい。だがそれが地元に還元される仕組みは乏しい。
観光産業の多くは外資が運営し、利益は海外へ流出していく。
その結果、地元商店街には「繁栄の影」が色濃く残る。

「この町に住む人より、働きに来る人、遊びに来る人のほうが多い。まるで季節ごとに入れ替わる“仮想都市”です」と話すのは、長年ペンションを営む女性だ。

冬の間だけ膨れ上がる経済、夏には閑散とする通り。
観光が生み出した繁栄は確かに華やかだが、その下で地元民は「暮らす場所」と「誇り」を失い始めている。

変化の内容主な要因影響
観光客急増外資誘致・SNS拡散地価高騰・生活コスト上昇
外国語化オーストラリア・中国・シンガポール系資本の進出地元文化の喪失
雇用の逼迫季節労働の偏り外国人労働者急増・定住率低下
行政の遅れ観光業偏重政策住民サービス低下・不満の蓄積
石和温泉街の様子
参考静かに進む「日本リゾート買収」外国資本が灯す温泉街の明かりと、奪われる風景

以前、取材で訪れた山梨県・石和温泉。平日の夕暮れ、足湯の湯けむりが立ちのぼる商店街を歩くと、聞こえてくるのは中国語と英語ばかりだった。旅館の玄関には「歡迎」「WELCOME」の文字。チェックインカウン ...

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高級メニューと労働力不足 “観光マネー”の光と影

夜のニセコ・ひらふ地区。店の扉を開けると、英語と中国語の会話が飛び交い、グラスのぶつかる音が響く。
かつては地元の常連が集まる居酒屋だったという店も、いまや世界各国から訪れる富裕層の社交場だ。

筆者が訪ねたレストランのメニューには、10万円のディナーコースが並び、数十万円のワインがリストに載っていた。
「最近は“値段が高いほうが売れる”んですよ」と、料理人の男性は苦笑する。
「お金を使う人は確かに増えたけれど、うちのスタッフの半分は外国人。地元の若い子はもう来ないんです」

この町の“好景気”は、観光マネーに支えられている。
だが、それが地元に残るかといえば話は別だ。
宿泊業や飲食業の多くは外資系企業の傘下にあり、売上は海外の口座へ流れていく。
地元に残るのは、一時的な雇用とインフラ負担だけだ。

清掃会社で働く女性はこう打ち明ける。

「観光シーズンになると人が全然足りなくなるんです。私たちは小樽から1時間かけて通勤。時給は悪くないけど、疲労がすごい。最近は東南アジアの若い人が多く働いていますね」

彼女のような労働者が支えているにもかかわらず、彼らが町の中心に住むことはできない。
家賃は札幌並み、ワンルームでも10万円近い物件がある。
そのため、労働者は周辺町から通勤するか、企業が用意した簡易宿舎に詰め込まれる。

別の地元男性は、そんな現状をこう語った。

「お金が動くのは冬だけ。春になれば外国人観光客も、働いてた人もいなくなる。まるで“季節限定の町”みたいですよ」

観光マネーは確かに潤いをもたらした。
だが、それは地元の人々の生活の上に築かれている。
働く人々の疲労と孤立、文化の希薄化。ニセコの繁栄は、見えない代償を伴っている。

利益を得る層実態問題点
外資系ホテル・飲食企業富裕層向け事業で高利益地元への再投資が乏しい
季節労働者(日本・アジア)時給高だが短期雇用中心生活の不安定化・定住難
地元住民物価・家賃高騰の影響地元離れ・文化の断絶
自治体税収増だが構造依存インフラ維持コストの増大

北海道新幹線延伸で“ニセコバブル”が加速する

倶知安駅前の工事現場では、早朝から重機の音が響く。
ヘルメット姿の作業員の声に混じって、英語と中国語のやり取りが聞こえてくる。
2024年現在、北海道新幹線の延伸工事は佳境を迎え、2030年の札幌開業に向けて着々と進んでいる。
その新駅ができるのが、ニセコから車で10分ほどの倶知安。つまり、“世界のニセコ”の玄関口だ。

「新幹線が通るらしい」という噂が流れ始めたのは数年前。
それを境に、地元の風景は一変した。
「売地」の看板が英語表記になり、土地の問い合わせ先は東京ではなく香港やシンガポール。
地価はわずか数年で数倍に跳ね上がり、いまや100㎡にも満たない土地が1億円を超えるという。

町の不動産業者は苦笑する。

「問い合わせの9割は外国資本です。別荘、ホテル、コンドミニアム……札幌延伸が正式に決まってからは、“買えるうちに買っておけ”という雰囲気ですよ」

駅から少し離れた農地でも、見慣れない動きが始まっていた。
シンガポールの企業が所有する土地で、外国人労働者向けの共同住宅を建設している。
全30棟、最大1,200人規模の計画だ。
建設予定地の周辺はまだ一面の雪原だが、すでに地元では「治安が悪くなる」「水が足りなくなる」と不安の声があがる。

しかし行政は、「雇用創出につながる」として計画を許可した。
反対署名は数百件にのぼったが、結局通らなかった。
ある主婦は、家の前を通る工事車両を見つめながらつぶやいた。

「ここはもう観光地じゃない。投資の街ですよ」

ニセコのバブルは、もはや観光ではなく**“土地を巡る金融商品化”**に変わりつつある。
別荘は数億円、ホテルの一室は投資信託の対象。
まるで株式市場のように土地が取引され、地域の熱量とは裏腹に、利益の大半は域外へと流れていく。

「雪も土地も、もう“商品”なんです。昔みたいに“この町で暮らしたい”っていう人が減っているのが一番の問題ですね」
と、長年旅館を営んできた男性は肩を落とした。

現象背景影響
地価の高騰新幹線延伸決定・外資投資の集中若年層の住宅難・地元離れ
外国人投資家の流入不動産を資産運用目的で購入定住意識の欠如・景観悪化
行政の許可乱発短期的な経済効果を優先コミュニティ崩壊・インフラ負担増

相次ぐ違法建築と伐採 モラルなき開発の代償

ニセコの山あいを車で走ると、かつての森がぽっかりと消えている場所に出くわす。
地図では緑のままなのに、実際は真新しい砂利道が伸び、切り株が無数に転がっている。
風に乗って乾いた木屑の匂いが鼻を刺す。
地元の人が言う。「あそこ、去年までは原生林だったんだよ」。

2024年6月、倶知安町巽地区でおよそ3.9ヘクタールもの森林が無許可で伐採されていたことが発覚した。
重機を持ち込んだのは札幌の不動産会社。その背後には中国系資本があったという。
行政は工事の停止を「勧告」したが、すでに木々は戻らない。
「止めた時には、もう森がなかった」と地元の環境団体は語る。

北海道後志振興局(ニセコ町含む)における海外資本等森林取得面積の年別推移(2012-2023年)

さらに10月には、ニセコ町内で建設中の賃貸アパートが“無許可増築”されていることが判明。
驚くべきことに下水道への接続もされておらず、業者は「汲み取り式にすればいい」と言い放ったという。
行政は使用禁止を命じたが、工事の大半は完了していた。
その現場に近い住宅街の主婦は、ため息をつく。

「冬の観光客向けにどんどん建てて、春になったら放置。景観も、暮らしも、全部置き去りです」

どちらの案件も、中国系の資金が関与していたことから、地元の外資不信に拍車がかかった。
だが一方で、責任を外資だけに押しつけることもできない。
行政は開発を許可する基準を明確に示さず、外国語での説明も不十分。
結果として「知らなかった」「注意がなかった」と言い逃れる余地を与えてしまっている。

「地元の人間が薪を拾うにも許可がいるのに、外から来た企業は山ごと持っていく。そんなのおかしいでしょう?」
と語るのは、70代の元林業従事者。
彼の声には怒りというより、長年見続けてきた者の“諦念”が滲んでいた。

伐採跡地には、やがて別荘地の広告看板が立つ。
“Luxury Forest Residence”その文字の下で、鳥の声だけが虚しく響く。
利益を追い、倫理が置き去りにされた開発は、ニセコの自然を“資産”として切り売りしている。
かつて雪と共に息づいていたこの町は、いまや“数字と利回り”の街へと変わりつつある。

事例主導企業問題点行政対応
森林無許可伐採(3.9ha)中国系資本の関与環境破壊・条例違反工事停止勧告のみ
アパート無許可増築外資系デベロッパー下水未接続・安全基準違反使用禁止命令
インフラ整備遅延自治体監視・周知体制の欠如罰則強化検討中

制度整備の遅れが“侵食”の温床に

ニセコの開発をめぐる問題は、単なる“外資批判”で片づけられるものではない。
むしろ本質は、行政が「開発ルールを時代のスピードに追いつかせていない」ことにある。

町役場の職員は語る。

「条例はあるんですが、説明も監視も追いついていません。申請書は日本語のみで、外国人事業者は内容を理解していないことが多い。結果として、違法とは言えない“グレーゾーン”の開発が進んでしまうんです」

この“説明の欠落”が、ニセコを形だけの観光都市に変えてしまった。
どれほど自然を愛する人がいても、ルールが曖昧なら、最後に勝つのは資本の論理だ。

地元不動産業者は言う。

「外資が悪いわけじゃない。日本人でもルールを破る人はいる。問題は、行政が誰にもわかる形でルールを示せていないことなんです。警告や勧告じゃなく、“共存の仕組み”をつくるべきなんです」

観光で潤う町ほど、制度整備は後回しにされる。
だが、開発が一度動き出すと止めることは難しい。
町の景観も、森も、水源も、資本に組み込まれた瞬間に“資産”へと姿を変える。
その代償を支払うのは、いつも地元の人々だ。

ある若い住民が、筆者にこんな言葉を残した。

「観光地になるのは悪いことじゃない。でも、ここに“人の暮らし”があることを忘れないでほしい。ニセコは、リゾートのためにあるんじゃなくて、人が生きるための場所なんです」

本来、観光地とは“訪れる人”と“暮らす人”が共に豊かになれる場所であるはずだ。
ニセコが再びその原点に立ち返るには、明確な制度設計と地域主導の再生が欠かせない。
開発を止めることはできなくても、“どう育てるか”を選ぶことはできる。

雪解けの春、羊蹄山の麓に再び緑が戻るように。
ニセコにも、人と自然が共に息づく“第二の季節”が訪れることを願いたい。

問題の根本現状今後の課題
行政制度の遅れ外資・地元双方にルール不明確多言語化・透明化の徹底
開発偏重の構造短期利益重視の政策持続的観光と環境保全の両立
地域の声の弱さ住民意見が反映されにくい住民参加型のまちづく

よくある質問

ニセコの地価は今後も上がり続けるのでしょうか?

2030年の北海道新幹線延伸までは上昇傾向が続くと見られています。
ただし、その先には「投資目的のピークアウト」が懸念されており、バブル後の反動で価格が一時的に下落する可能性もあります。持続的な成長には、地元主導の観光政策と土地利用規制の整備が不可欠です。

なぜ行政は外資系開発を止められないのですか?

現行の条例が外国企業向けに明確化されていないこと、また行政側に多言語での指導体制や法的拘束力を持つ罰則が不足しているためです。
さらに「短期的な税収増」を優先する政治的判断も背景にあります。これが制度の“穴”となり、無秩序な開発を招いています。

地元住民の反対運動は今も続いているのですか?

はい。特に森林伐採や水源地周辺の開発をめぐっては、地元団体による署名や訴訟準備が進められています。
ただし、観光産業への依存度が高いため、地域内でも意見が分かれており、「開発を全否定するのではなく、共存の形を探る」という動きが増えています。

外資の進出は本当に悪いことなのでしょうか?

一概には言えません。
実際、外資によって雇用が生まれ、国際的な知名度が高まったのも事実です。
問題は“誰のための開発か”という視点です。地元の文化と生活を尊重した形での共存が実現すれば、外資の存在はむしろ地域の力となり得ます。

参考・出典

  • この記事を書いた人

deshi

フリーライターの deshiです。 かつて、とある作家の裏方として企画や調査を担当していました。そうした経験を活かし、ちょっと風変わりで角度のある視点から世の中を見つめています。 この「雑食系考察ブログ」では、日常の小さな違和感から時事ニュース、社会問題、ネット上の噂話まで幅広く取り上げ、「そんな見方もあったのか」と思える切り口を意識しています。 情報は事実ベースで収集・整理したうえで、私なりの視点で検証・考察しています。意見を押しつけることよりも、「一緒に考えてみませんか?」という姿勢を大切にしています。

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