先月、姪っ子がテーブルの角で頭を打って“大きなたんこぶ”を作り、夜間救急に駆け込みました。診察室で医師が落ち着いた声で言ったひと言が印象的です。
「たんこぶは“外側”の血が盛り上がっているだけ。怖いのは内側(脳の周囲)です。」
幸い異常はなく帰宅できたのですが、帰り道に私の頭の中には別の疑問が渦巻いていました。
そもそも脳って痛みを感じないって本当?
どうして頭だけこんなに腫れやすい?
そういえば、以前、科学館の企画展で見たパネルには「トマトのほうがヒトより遺伝子が多い」と書いてあった。あの“矛盾”はどう説明できる?
本記事では、「トマトより遺伝子数が少ない理由」「頭だけにたんこぶができやすい構造」「脳は痛みを感じないのになぜ頭痛が起こるか」「おへそが消えないワケ」を、動画の内容をベースにしつつ自分の言葉で再構成。さらに数字・具体例・医療現場の視点を加えて、動画を見なくてもスッと理解できるように解説します。
読み終える頃には、姪っ子のたんこぶがくれた“人体への問い”が、あなたの中でも心地よい納得に変わるはずです。
こんな方におすすめ
- 雑学や生物学が好きで、人間の体の仕組みに興味がある方
- 理科の知識をわかりやすく学び直したい社会人・学生
- YouTubeで話題の科学ネタを、より深く理解したい方
ヒトの遺伝子数はトマトに負けている?
私たちは「人間は高度な生物だから、遺伝子の数も多い」と思いがちですが、実際はその逆です。
ヒトの遺伝子数は約 2万2,000個。
一方でトマトは 約3万個。つまり、人間はトマトより遺伝子の数が少ないのです。
この事実は「Cバリューパラドックス」と呼ばれます。
“生物の複雑さ=遺伝子の多さ”という常識を覆す現象であり、たとえばミジンコ(約3万1,000個)やイネ(約3万7,000個)にもヒトは遺伝子数で劣ります。
では、なぜヒトがトマトより複雑な存在になれるのでしょうか?
答えは、遺伝子の使い方の精密さにあります。
人間のDNA全体のうち、実際にタンパク質を作る部分は わずか2%未満。
残りの98%は、かつて「ジャンクDNA(=役立たず)」と呼ばれていました。
しかし、近年の研究でこの“使われていない部分”が、遺伝子の発現タイミングをコントロールするスイッチのような役割を果たしていることが判明しています。
たとえば、人間の体を構成する約 37兆個の細胞は、すべて同じDNAを持っていますが、
心臓になったり、神経になったり、皮膚になったりと、全く異なる働きをします。
この「同じ設計図から違う機能を生み出す」制御を担っているのが、まさにジャンクDNAなのです。
一方、トマトや植物は“環境変化への強さ”を重視した構造をしています。
暑さ、乾燥、害虫などのストレスに対応するため、同じ遺伝子を複製して多重防御する戦略を取ります。
そのため遺伝子数が多くなりますが、制御は単純で、人間のように複雑な情報処理は行っていません。
つまり、「トマトは量で守り、人間は制御で進化した」というわけです。
遺伝子の数では負けても、遺伝子の使い方(情報処理能力)では人類の圧勝といえます。
科学的には、これは「量より質」の進化の象徴なのです。
| 比較項目 | ヒト | トマト |
|---|---|---|
| 遺伝子数 | 約2万〜2.3万個 | 約3万個 |
| DNA構造 | 98%が制御用・非コード領域(ジャンクDNA) | コピー遺伝子が多く冗長 |
| 進化戦略 | 情報制御と分化能力を重視 | 環境適応と耐性を重視 |
| 特徴 | 少ない遺伝子で多様な細胞機能を実現 | 同じ遺伝子を複製し環境変化に強い |
| 象徴する言葉 | 「量より質」 | 「数で守る」 |
なぜ頭以外に「たんこぶ」はできないのか?
子どものころ、転んで膝をすりむいても「こぶ」ができた記憶はあまりありません。
けれど、頭をぶつけると一瞬で大きなたんこぶが膨らむ。誰もが経験したことのある不思議な現象です。
実は、たんこぶ(皮下血腫)が頭にできやすいのは構造的な理由があります。
頭皮のすぐ下には、筋肉や脂肪がほとんどなく、すぐに硬い頭蓋骨があるため、打撃の衝撃を逃がす「クッション」が存在しません。
その結果、衝撃で破れた血管から血液が皮下に溜まり、行き場を失った血が外に盛り上がる。これがたんこぶです。
一方、腕や脚などは脂肪や筋肉層が厚く、血液が内部に分散して吸収されます。
そのため“こぶ”のように盛り上がることは少なく、内部では同じように出血していても、外見では分かりにくいだけなのです。
さらに、頭は体の中でも血流が豊富な部位。
脳を守るために酸素や栄養を常に供給しており、毛細血管の数も桁違いに多いのです。
その分だけ出血しやすく、結果として「腫れ=こぶ」ができやすくなります。
医師によると、たんこぶができるということ自体は「血が外に逃げられている」証拠でもあります。
内側に溜まるよりは安全で、むしろ外に出ているほうが軽症である場合も多いそうです。
ただし、注意すべきは「外に出血がなくても内部で出血しているケース」。
強い打撃の後に吐き気や頭痛、意識のもうろう、瞳孔の左右差などがある場合は、脳内出血や硬膜下血腫の可能性があるため、すぐに受診する必要があります。
また、頭皮は他の部位よりも皮膚が薄く、毛根や皮脂腺が密集しています。
そのため、炎症が起こると痛みや熱を持ちやすく、“腫れ+痛み”というセットで強く自覚するのも特徴です。
つまり
頭だけにたんこぶができるのは、「構造的な理由(骨が近い)」「血流の多さ」「皮膚の薄さ」という3つの条件が揃っているから。
たんこぶは「頭が守られている証」であり、人体の防御システムの副産物ともいえます。
| 比較項目 | 頭部 | 他の部位(腕・脚など) |
|---|---|---|
| 骨と皮膚の距離 | 非常に近い(クッションなし) | 脂肪・筋肉がクッションになる |
| 血管の多さ | 非常に多い(脳を守るため) | 少なめで出血が分散しやすい |
| 出血時の血液の逃げ道 | 外側へ盛り上がる(たんこぶ形成) | 内側へ分散し外見に出にくい |
| 痛み・炎症 | 強く出やすい(神経と毛根密集) | 比較的軽い |
| 注意点 | 内出血・脳震盪の可能性あり | 外傷のみで済むことが多い |
脳は痛みを感じない
「頭が痛い」と言いますが、実は脳そのものは痛みを感じていません。
これを初めて聞くと、少し不思議に思うかもしれません。
脳は体中の痛みを感知している司令塔のような存在なのに、自分自身の痛みはわからないのです。
その理由は単純で、脳の中には痛覚受容体(痛みを感じる神経)が存在しないため。
体のあらゆる部分には「熱い」「痛い」と感じるセンサーが分布していますが、脳の神経細胞にはそれがありません。
このため、脳神経外科では患者が目を覚ましたまま脳手術を受ける「覚醒下手術(かくせいかしゅじゅつ)」が可能です。
手術中に患者が話したり、手を動かしたりしても、脳自体には痛みがないため、
麻酔なしでも施術ができるのです。
では、私たちが普段感じる「頭痛」とは何なのでしょうか?
実はあれは脳の外側にある構造物たとえば、脳を包んでいる「硬膜(こうまく)」や、頭の血管、筋肉、神経が刺激された時に起こる痛みです。
つまり、“頭痛”とは「脳が痛い」のではなく、“脳の外側が痛い”というわけです。
たとえば、片頭痛(偏頭痛)は脳の血管が拡張したり、血流変化によって血管壁の神経が刺激されて起こる痛み。
緊張性頭痛は、肩や首の筋肉がこわばることで頭皮や筋膜が引っ張られるのが原因。
どちらも脳内部ではなく、脳のまわりの構造が痛みを発しているのです。
それにしても、脳が痛みを感じないというのは、進化の妙です。
もし脳が痛覚を持っていたら、わずかな刺激でも痛み信号が止まらなくなり、思考や行動ができなくなるでしょう。
“痛みを感じない設計”こそが、人間が複雑な思考を行うための前提条件なのかもしれません。
ただし、脳腫瘍や出血などによる“圧迫”で、周囲の膜や血管が刺激されると激しい頭痛が起こります。
そのため、長引く頭痛や吐き気を伴う場合は要注意。
「脳が痛くない=安全」というわけではありません。
脳は沈黙していても、その“周辺”が警鐘を鳴らしていることがあるのです。
| 比較項目 | 内容・ポイント |
|---|---|
| 痛みを感じる場所 | 脳そのものではなく、硬膜・血管・筋膜など脳の外側 |
| 痛覚受容体の有無 | 脳内には存在しない(痛みを伝える神経がない) |
| 代表的な頭痛の原因 | 血管拡張(片頭痛)・筋肉緊張(緊張性頭痛)など |
| 医療現場での例 | 覚醒下手術では脳を刺激しても痛みがない |
| 注意点 | 脳周囲の炎症や出血では激しい頭痛が起こる |
なぜ「おへそ」は消えないのか?
おへそ。それは、私たちが母親とつながっていた“最初の痕跡”です。
生まれてすぐに切り離されるへその緒。その跡が、おへそになります。
へその緒は胎児にとって命綱であり、酸素や栄養を運ぶ“母体とのパイプライン”。
出産後にその役目を終えても、おへそが一生消えないのはなぜでしょうか?
実は、おへそは「傷跡」だからです。
へその緒を切断したあと、残った部分が乾燥して自然に取れ、皮膚が閉じることでくぼみ(または盛り上がり)が形成されます。
このとき、体の真ん中。正中線にできた傷は、他の部位より治りにくいという特徴があります。
人間の体は、発生の過程で左右から細胞が伸び、中央で融合してできています。
つまり、正中線とは「左右がつながる継ぎ目」のような部分。
この部分の皮膚は構造的に弱く、完全に再生しにくいため、結果として“消えない跡”として残るのです。
また、へその形が人によって違うのも面白いところ。
生まれたときのへその緒の太さ、切断位置、皮膚の収縮の仕方によって、「出べそ」や「くぼみ型」など、形に個人差が生まれます。
このため、おへそは“世界に一つだけの傷跡”とも言えます。
医学的には、へその内部は「臍窩(さいか)」と呼ばれ、菌が繁殖しやすい構造をしています。
特に夏場は汗や皮脂が溜まりやすく、放置すると炎症(臍炎)やかゆみの原因になることもあるため、定期的なケアが必要です。
「触ると縁起が悪い」と言われることもありますが、それは昔、衛生状態が悪く感染症を防ぐための“民間知恵”でもありました。
おへそは、ただの名残ではなく母と子のつながり、命の証、そして人類の進化の痕跡なのです。
| 比較項目 | 内容・ポイント |
|---|---|
| おへその正体 | へその緒を切断したあとの傷跡 |
| なぜ消えない? | 正中線(体の中央部)は治癒しにくいため跡が残る |
| 形の違い | へその緒の太さ・切断位置・皮膚の張力で個人差が生じる |
| 衛生面の注意 | 汗・皮脂が溜まりやすく炎症の原因になることも |
| 象徴する意味 | 母体とのつながりと命の証、人間形成の記録 |
よくある質問
遺伝子数が少ないのに、なぜ人間は知能が高いの?
遺伝子の数よりも「スイッチ(発現制御)」の仕組みが優れているからです。
人間のDNAは、少ない遺伝子を組み合わせることで、膨大なパターンのタンパク質を生成できます。
いわば「少ない部品で多くの作品を作れる」構造です。たんこぶができたときに冷やすのはなぜ?
打撲直後は血管からの出血を抑えるためです。
冷やすことで血流が一時的に減少し、内出血や腫れの拡大を防ぎます。
ただし、翌日以降は温めて血流を促す方が治りやすいとされています。脳の痛みを感じないって、じゃあ頭痛薬は何に効いてるの?
頭痛薬は「脳の外側」にある血管や神経の炎症を抑える薬です。
血管の拡張を抑制し、神経の興奮を鎮めることで“痛み信号”を減らしています。おへそって掃除しても大丈夫?
綿棒でやさしくケアする程度ならOKですが、奥まで強くこすると炎症を起こします。
石けんを泡立てて軽く洗い流すくらいが理想です。
強いにおいや痛みがある場合は、臍炎(へそ炎)や感染の可能性があるため皮膚科へ。
まとめ
私たちの身体は、進化の過程で生き延びるために形づくられてきました。
けれど、その構造には「合理的とは言えない不思議」がたくさんあります。
たとえば
- 遺伝子数ではトマトに負けているのに、思考や文明を築ける。
- 頭だけに「たんこぶ」ができるように設計されている。
- 痛みを司る脳が、自分自身の痛みを感じない。
- へその緒の名残が、今も体の真ん中に刻まれている。
どれも一見“非効率”ですが、それらはすべて生きるための適応の結果でもあります。
完璧ではない構造が、むしろ人間らしさを形づくっている。そう考えると、人体の不思議は単なる雑学ではなく、「生命の哲学」にも通じます。
科学者アラン・ワッツは言いました。
「自然は不完全であることをもって、完全なのだ。」
人体はまさにその象徴です。
たとえ“無駄”や“欠陥”のように見える部分も、見方を変えれば、私たちが生き残るために必要だったパズルの一片。
人間の体は、未完成であることこそが、最大の完成形なのかもしれません。
| トピック | ポイント | 象徴するテーマ |
|---|---|---|
| ヒトの遺伝子はトマトより少ない | 遺伝子数より“使い方”が重要 | 進化の効率性 |
| 頭にしかたんこぶができない | 骨と皮膚の距離・血流構造の違い | 体の構造と防御機能 |
| 脳は痛みを感じない | 痛覚神経が存在しないため | 知覚と生存のバランス |
| おへそはなぜ消えない | 正中線の傷跡が癒えにくい | 命のつながりと痕跡 |
参考リンク
- YouTubeチャンネル「9割が知らない雑学」:「実は人体でよく分かっていないこと」
- 遺伝子に関する一般向け説明 MedlinePlus「What is a gene?」
- 痛みの分子機構レビュー “Pathology of pain and its implications for therapeutic targets” (Nature journal review)
